見知らぬ世界に1


「う・・・ん・・・」
頬を撫でる風の感触で、百合は目を覚ました。
あまりいい気分ではない。
ゆっくりと常態に戻っていった百合の意識が、自分のおかれた状況を探る。
「ここ・・・ええっ・・・?ここ何処なの・・・!?」
目の前に広がるのは、赤茶けた砂と岩に覆い尽くされた荒野だった。
辺りを見回すと近くには、砂に埋もれかけ、砂に帰ろうとしている廃墟が点在していることがわかった。
いずれにせよ、こんな場所に来た覚えはない。
(なんで私、こんなところにいるの・・・!?)
百合は覚えている限りの記憶をたどってみる。
いじめを苦に絶望した自分は、公園で自殺を図ろうとしていた。その時地震が起こり、直後に突然足元に穴が開いて、そこへ・・・。
「そうだ・・・。私、あの変な穴に・・・」
不思議な穴に落ちたことまでは覚えていたが、そこからの記憶は途絶えていた。
廃墟にもたれかかるような姿勢で倒れていた百合は、立ち上がろうとして両手を地面につこうとする。
「・・・痛っ!?」
なぜか左手をつくことができず、百合はそのまま倒れてしまった。
左手になんともいえない痛みと、ものたりなさがある。
「えっ・・・?」
百合はあわてて自分の左手を見て、そして、その顔は見る見るうちに蒼白となっていった。
左手の、手首から先がなくなっていた。
「ええっ!?そんな・・・・!?」
あまりのショックに百合の声が震える。自殺を図ろうとした時に地震が起こり、その揺れによってカッターで手首を傷つけてしまったのは覚えていた。だが、手首から先をまるごと失うような傷ではなかったはずだ。
切り口は鋭利な刃物によって一瞬で切られたようにまっすぐになっていて黒く変色している。
カッター程度でこんなことになるはずないのは百合にだってわかった。
「穴に掴もうとしたときに、手が痛くなったけど・・・」
百合は無事な右手でなんとか起き上がるが、そんな彼女に、さらに信じられない現実が突きつけられる。
起き上がろうとしたとき顔にかかった髪の毛。それは、見慣れた黒髪ではなく真っ白く変色していた。
「きゃああっ・・・・!?」
百合の口から悲鳴があがる。左手がなくなってしまっただけではなく、少しだけ自慢に思っていた美しいまでの黒髪が真っ白になっていたのだから無理もない。
「なんでぇ・・・?なんでこんなことに・・・・?」
見知らぬ場所に来てしまった上に、身体までおかしくなってしまった。
次々と襲いかかるショックな出来事に、百合は全身から脱力感を感じ、廃墟にもたれかかる。
身を包むセーラー服が砂で汚れるが、今の百合にはそんなことを気にする余裕などなかった。
「夢・・・よね・・・?」
百合は自分に言い聞かせるようにつぶやくが、全身に吹きつける風の感覚、背中に感じる廃墟の崩れかけた壁のざらついた感触が、この状況が夢ではないことを教えている。ぼんやりと見つめる先には、確かに果てしなく広がる荒れた大地が広がっていた。
学校、通学路、路面電車、駅、商店街、公園・・・そして、百合が心安らげる唯一の場所、自宅。
ここには、百合の見慣れた光景はなに一つなかった。
百合の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
(なぜ・・・?どうして・・・こんな目にあわないといけないの・・・・?)
自問するが、答えなど出ない。まわりにも応えてくれる人もいない。
しばらくの間、座り込んで呆然としていた百合は、ふと立ちあがった。
廃墟があるということは、少なくてもこの見知らぬ土地のどこかに、人がいるということだろう。
百合は助けを求めて歩き始めた。
よく見れば地面のあちこちに人骨らしきものが転がっている。亡くなってからかなりの時間が立っているらしく、人骨はかなり黄ばんでいた。
無造作に転がった人骨を見るのはもちろん初めてのことで正直なところ気持ち悪いが、百合には素直に怖がる贅沢は許されていない。
とにかく誰でもいいから生きている人と出会い、教えて欲しかった。
ここがどこなのかを。


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